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ガイドラインサブ解析論文の概要解説①


地域在住高齢者の膝伸展筋力を改善するための低強度筋力トレーニング: ランダム化比較試験の系統的レビューとメタアナリシス

 理学療法ガイドライン第2版では、地域在住高齢者に対して低強度筋力トレーニングを行うことが条件付きで推奨されており、膝伸展筋力への改善効果が示されています。今回、より詳細な運動処方への適応を明らかにするために、運動強度や運動頻度で分けた場合の効果について調査した結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します。(Exp Gerontol, 2023年2月公開)。

膝伸展筋力を改善するための低強度筋力トレーニング
 筋力の低下は、高齢期に起こる典型的な機能低下のひと つです。 疫学研究では、高齢者の加齢に伴う筋力低下が、歩行、椅子からの立ち上がり、階段の昇り降りなどの基本的な 日常生活動作の低下と関連することが報告されています。複数のランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial; RCT)をまとめたメタアナリシスでは、高強度の筋力トレーニングが有益であり、筋力を改善することが示されています。しかしながら、高強度の筋力トレーニングは、骨折、転倒、痛みの発生などのいくつかの有害事象を引き起こす可能性も指摘されており、継続性に関しても懸念が示されています。安全で持続可能なトレーニングのひとつに低強度の筋力トレーニングがあり、これまでに複数の RCT が、膝伸展筋力の向上に効果的であることを示しています。しかし、この効果を系統的に複数の結果を統合した解析はなされておらず、強度、頻度、期間、トレーニング部位などの特定の条件に関連して、高齢者への適応を調べたメタアナリシスはありませんでした。そこで、今回は、低強度筋力トレーニングが地域在住高齢者の膝伸展筋力に及ぼす影響を調べました。

系統的レビューとメタアナリシス
 国際的な複数の文献検索サイトで、2018 年 12 月までに公開された論文について、文献検索を実施しました。地域在住の60歳以上の高齢者を対象に、1回の最大反復回数(1RM)が60%未満の筋力トレーニングを低強度筋力トレーニングと定義し、分析を行いました。はじめに、データベースから選ばれた29061文献を、タイトルと要旨から2人一組でスクリーニングし、420文献に絞りました。その後、詳細に文献の内容を確認し、最終的に7文献(対象者275人)が選択され、分析を行いました。なお、これらのすべての分析は、高齢者に対する筋力トレーニングの経験のある理学療法士によって実施されました。

運動強度は最大挙上重量(1RM)の50~60%、運動頻度は週3回で、効果的な可能性
 メタアナリシスによる効果の検定および標準化平均値差(Standardized Mean Difference; SMD)の結果から、高齢者に対する低強度筋力トレーニングは膝伸展筋力に対して有効であることが確認されました(SMD 0.62, 95 %信頼区間 0.32–0.91)。特に1RMの50~60%の運動強度(図1)や、週3回の運動頻度(図2)で低強度筋力トレーニングを行うことは、膝伸展筋力の改善に対して、より効果的である可能性が示唆されました。

図1 . 運動強度の違いによる低強度筋力トレーニングの膝伸展筋力の改善効

図2. 運動頻度の違いによる低強度筋力トレーニングの膝伸展筋力の改善効果

今回の研究からわかったこと
 今回の系統的レビューとメタアナリシスにより、低強度筋力トレーニングは、地域在住高齢者の膝伸展筋力を向上させる効果的な戦略であることがわかりました。さらに、50 ~ 60%1RM の運動強度や、週に 3 回の運動頻度で低強度筋力 トレーニングを実施することで、より有効である可能性が示唆されました。本研究は、地域高齢者の膝伸展筋力に対する低強度筋力トレーニングの効果をまとめた最初のメタアナリシスであり、地域に住む高齢者の筋力低下を予防するための、効果的で多様な介入方法のエビデンスを提供するものと考えられます。高強度の筋力トレーニングが難しい高齢者に対しては、安全な介入方法のひとつかもしれません。
今回の研究では2019年以降の文献が含まれておらず対象者が少ないことや、低強度筋力トレーニングの膝伸展筋力への効果のみに着目していること等が限界点としてあげられ、今後のさらなる研究が必要です。